ロシアのバーニャについて、「そもそもバーニャとは何?」「ロシアでの浸透度はどのくらい?」という問いに、Vol.1で答えてくれたウィスキングマスターの根畑陽一さん(ネバーニャさん)。Vol.2では、つい最近行ってきたというロシア出張の話を深掘りしよう。都市から田舎まで、知られざるバーニャの世界へとご案内。
根畑陽一(ネバーニャ)
三井物産に勤務していた頃、4年間のロシアに駐在。本場ロシアでウィスキングとロシア語を習得し、帰国後に独立。現在は、日本でバーニャ文化とウィスキングを広めるべ幅広く活動する。「バーニャジャパン」を法人設立し、ロシア製のテントサウナ「テルマ」の輸入販売も行う。
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本物のバーニャを日本に知ってもらいたい
―今回のロシア出張はどんな目的で行かれたんですか?
プロのバンシック(バーニャ/ウィスキングマスター)が施すウィスキングの技術を学びにいきました。彼らは健康で体力や忍耐力があって、バーニャをちゃんとコントロールできて、そして健康や体の仕組みをよく理解していますね。彼らの知識やスキルをさらに学ぶためですね。
結論からいうと、ロシア出張は控えめに言ってめちゃくちゃ最高でした(笑) ここ(写真上)は「プライベートバーニャ」の庭なんですが、想像以上にディープな世界でした。何がディープかっていうと、「バンシック」(バーニャマスター)の話がかなり深かったですね。バーニャ界の最先端をいく彼らは世の中の癒しや体について勉強していて、アーユルヴェーダなどバーニャに合いそうなものはどんどん採り入れていっているんです。
日本だと「ととのう」という表現で言われがちですが、彼らの思想は割と精神的にも深い。ウィスキングの技術を学びに行った僕も、「バーニャやウィスキングを学ぶ前に、まず自分自身を学びなさい」と言われたんです。自分自身を学ばないと人に与えられないよ、と。これが“マスター”のレベルなんですよね。こういう人たちが本来のバーニャ文化を少しずつ広めていっているんです。そんな体験を通して、「本物のバーニャを日本に知ってもらいたい」とすごく感じました。
仲間と楽しめるオムスクの「貸切バーニャ」
―まずは一般的に入りやすいロシアのバーニャを教えてください。
今回はまず、以前僕が一年間いたオムスクという場所に行きました。友達や僕が習っていたロシア語の先生たちに会いに行ったんですが、その夜みんなで「貸切バーニャ」に行きました。ロシアにはよくあるスタイルなんですが、サウナから水風呂まで全部貸し切れるんです。
だいたいの所が店員さんが外から薪をくべる造りで、その場でヴィヒタも買えます。日本だと1束2000円以上したりしますが、ロシアでは1束300〜400円とかなり安いです。サウナの台は70cmくらいで高めに作られていて、ゆったりと横になることができます。
内気浴スペースにはテーブルと椅子があって、半裸の状態であったかいお茶を飲んだり話したりしながら休みます。で、しばらくしたらもう1回サウナに入るという。日本だったら銭湯の延長線上にサウナがあるので、更衣室で服を脱いで、サウナに入って出てきたらまた着て、でまた脱いで入る、みたいな何ループかする感じなんですけど、ロシアではバーニャ小屋の中に休む部屋があるんですね。友達どうしでここを貸し切って、それぞれ食べ物や飲み物を持ち寄ったりしています。
田舎に根付く「面倒でも味わう癒し」
―バーニャは都市だけでなく、田舎にもあるんですか?
そうですね。これはオムスクの田舎にあるんですが、外観はDIYで作られたような小屋です。中に入ると休む部屋と薪ストーブが置かれたサウナ室があって、水が通っていないのでわざわざ井戸から水を汲んできて上のタンクに入れる仕組み。そうして温まったお湯で体を洗うんです。
昔から田舎では、バーニャは体を洗う場所でもあるんですが、お湯の出るシャワーがある今でも薪を割ってくべて水を運んで…って準備が大変なバーニャにわざわざ入るのは、癒しやリラックスを求める習慣が根付いているんですよね。友達がよく言っていたのは、「準備している時間もバーニャ」だと。1時間じゃなくて2〜3時間、なんなら半日使って、準備段階からワクワクしてるんです。
モスクワの公衆バーニャへ
―大都市モスクワのバーニャ事情についても教えてください。
モスクワは、都会的な建物もあれば昔のソ連時代の建物もあるし、摩天楼みたいなところもあります。モスクワの中心部はシェアエコノミーが発達していて、その辺は日本より進んでいるような気がします。いろんな場所でカーシェアや電動キックボードが使えるし、タクシーもアプリで呼べる上に安い。移動に困ることは全くありません。
そんなモスクワの街には、公衆バーニャがたくさんあります。有名なのは、サンドゥニという200年以上やってる、ロシアで1番古いバーニャ。床が大理石でできていたりしてめちゃくちゃ豪華。調度品とかもえげつなくて(笑)、貴族になったみたいな気分です。入場料も5000円〜と高いので、地元の人もそんなに行けないんですけどね。
着替えたりバーニャ後に休んだりするのは、公共のスペースです。店員さんにお茶やビールをオーダーして飲んだり食べたりできます。カーテンで仕切られている個室は、1時間5000〜8000円を追加で払うと貸し切れます。ピンポンを押して注文ができるというレストランっぽいスタイル。公衆バーニャは、飲食とバーニャが混ざった感じなんですよね。
オーク、白樺、ユーカリなどのヴィヒタを300〜400円と手頃に買えたり、サウナハットもここで購入できるので便利ですね。
ここのバーニャは2階建てで、かなりデカい造り。巨大な柱のようなストーブに水を入れてロウリュします。オプションでウィスキングもしてもらえます。ただみんなが入っている横でやるので、プライベート感はないですね。あと公衆バーニャは日本のサウナに近いんですが、結構熱く設定されていることが多く、入っても10分、長くても15分くらい。あんまりゆっくり過ごすという感じではないです。
そして、ここ(写真上二つ)は1979年、ソ連時代に建てられた公衆バーニャ。中が改装されてモダンなインテリアになっています。180cmくらいの潜れる深さのプール(水風呂)もあります。日本だったら“潜れる水風呂”ってだけで、わざわざ全国から人が集まるんですが、ロシアでは当たり前って感じですね。
こちら(写真上二つ)はモスクワの貸切バーニャです。こちらの水風呂も深いです。こういう貸切のところには、ビリヤード台とカラオケが置いてあって、バーニャに入りながらパーティの場所として使われたりもします。
ロシアの古都でスモークバーニャを体験
―ロシア第二の街、サンクトペテルブルクについても知りたいです!
サンクトぺテルブルグは、ロシア帝国時代の首都で運河が流れていて綺麗なヨーロッパのような街並みです。 そこで体験したのは、ここ(写真上)。スモークバーニャといって、1番古いタイプのバーニャを再現しているんです。煙突がなく、薪を焚いて煙を室内に充満させるんですが、その後に扉を開けて少し煙が残った状態で火を消し、ストーンの余熱の部分に水をかけて楽しむというスタイル。だから中は真っ黒なんですよ。
ここでやってもらったウィスキングも良かったんですけど、終わったあとに水風呂に入って、その後に藁の上に寝て布で視界を隠しながらシンギングボールというチベットの楽器を使った音のリラクゼーションを味わうのが気持ちよかったです。キーンという仏教的な鐘の音なんですが、ヒーリング効果もすごいし瞑想状態に入りやすいのも感じました。
ここではウィスキングのいろいろを教えてもらいました。ウィスキングってリズムがすごく重要で、音で癒される部分もあるんですね。葉っぱの音の中にも、フサフサフサ、ジャー、ドンドンっていう何通りもの違いがある。音もヒーリングの要素になり得るっていうのがいいですよね。
あとはウィスキング、マッサージとかもそうなんですけど、施術する人が疲れないってのはすごく大事だと実感しました。疲れるとその人に負のエネルギーが溜まって続けられなくなっちゃうので、楽な姿勢で脱力しながらやるんですよね。ヴィヒタを持つ手に力が入っちゃダメなんですよ。
癒しの本質を追求する「プライベートバーニャ」へ
―ネバさんにロシアのバーニャの話を伺っていると、バーニャの「箱」というよりも、その中でどこまで精神的な部分に触れられるかという部分の方が大切な気がしてきました。
そうですね。確かに今回ロシアに行く前は、今後サウナファンやロシアに行きたい人に箱を案内できるように下見しようという狙いもあったんですが、「プライベートバーニャ」を訪れて学んだら、公衆バーニャをいろいろ発掘するより、精神的な個々のアプローチを重視するバーニャのことをもっと知りたいと思いました。
プライベートバーニャは、個人営であるマスターに会いに行くことに一番意味があるんです。彼らも広くお客さんがいるわけじゃなく、限られたお客さんがリピートして訪れているんです。今後日本でも、気軽に体験できる公衆的なサウナが増えるのはもちろん良いんですが、プライベートサウナ、プライベートバーニャもだんだん増えてくるんじゃないかな。むしろそっちの方が、僕は相性いいのかなって思います。
Vol.3では、この「プライベートバーニャ」について、そしてそこで欠かせないマスターの役目について、お話したいと思います。