この星は広い。でもサウナトラベラーにとっては、この星は広くない。地球をぐるりと回っても、いつか行ってみたい世界のサウナがそこにあるから。アツい体験と発見をもたらす旅を夢見て、今回はロシアの「バーニャ」について、その道のプロフェッショナル、根畑陽一さんに教えてもらおう。

根畑陽一

三井物産に勤務していた頃、4年間ロシアに駐在。本場ロシアでウィスキングとロシア語を習得し、帰国後に独立。現在は、日本でバーニャ文化とウィスキングを広めるべく幅広く活動する。「バーニャジャパン」を法人設立し、ロシア製のテントサウナ「テルマ」の輸入販売も行う。
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そもそもバーニャって何ですか?

日本のサウナ好きの中でも「バーニャ」について知っている人は少ないですよね。「バーニャ」って何ですか?

ラテン語の「バネウム」という、“水に浸かる場所とか体を洗ったりする場所”の言葉が由来していて、英語の「バス」やスペイン語の「バーニョ」というお風呂やお手洗いを指す言葉もそこから来ています。その中でロシア語では「バーニャ」という言葉になり、それが蒸し風呂を意味するようになったようです。

歴史を読み解くと、ロシア人は1000年くらい前からバーニャに入っていたという記録があって、実はフィンランドと同じくらい古い歴史があったということです。

バーニャとサウナ、違いってあるんですか?

日本ではかつて、サウナは都市や温泉施設の中にあるもの、という認識が一般的でしたが、ロシアではバーニャ文化は田舎から始まっていて、今も郊外に多く点在しています。スタイルもいろいろあって、公衆バーニャ、貸し切れるバーニャ、手作りバーニャとかいろいろあります。

それと日本では、近年フィンランド式などロウリュできるサウナも主流になってきましたが、乾いた感じのドライサウナが全体数としては多くあります。一方、ロシア式のバーニャは一般的に木造の蒸し風呂小屋のことで、「ペチカ」と呼ばれる薪ストーブを使った大きめの暖炉が用意されています。暖炉のストーンに水を掛けて蒸気を発生させることで湿度を高めていくという考えなんですよね。温度もそんなに熱々じゃなく、40〜60度、熱くても80度くらい。その分湿度でゆっくりと高めていくんです。

それから、バーニャには東洋医学的な考え方があり、体を温めることへのこだわりが強いです。枝葉を束ねた「ヴェーニク」(フィンランド語でいうヴィヒタ)でウィスキング(蒸気を操って体に送ったり、叩いたり押し付けて体を温める施術)で、心身ともにリラックスできることも求められています。僕がやっていることもそうなんですが、それを人に施術する人(ウィスキングマスター)は健康で、体力や忍耐力があり、バーニャの構造や蒸気のコントロールに熟知していることが大切。もちろん、健康や体の仕組みに対する理解があることも求められています。

ロシアでバーニャが愛される理由

どうしてロシアでは、バーニャがポピュラーな文化になっているんですか?

ロシア人は多くの人が「ダーチャ」という別荘を持っているんです。ソ連時代に自給自足で野菜を作ろうという政策もあったことも理由のようです。モスクワに住みながら田舎にーチャを持って、そこで休暇を過ごしたり家庭菜園をやったりしています。そこにバーニャがあるんですよね。DIYでバーニャを作る人もいます。

寝っ転がって入れる構造のバーニャが多いんですが、やっぱり足を温めるという意識が強いのかなと。寒い国なので、どうしたら体が温まるのかというノウハウがみんなに浸透しているんですよね。それから蒸気を使った「ウィスキング」の技術が発展していて、自分でヴェーニクで叩いたり、一緒に入っている人と叩きあったりもするんです。それから、バーニャから出た人に「スリョーフキムパーラム」(爽やかな蒸気を得られておめでとう!)なんて言葉を掛け合ったりもします。これを言われたら「スパシーバ!」」(ありがとう)って返す感じ。

ロシアの人々はバーニャに何を求めていますか?

基本的には静けさを好んでますかね。もちろんテレビはないですし。もちろん普通に会話もするし社交の場になっている部分もあるんですけど、あまりやかましいところではないかな。よく相手が興奮した時とかに「とりあえずバーニャ行ってこい」という表現をすることがあるんです。=頭冷やしてこい、みたいなフレーズです。ソ連映画とかに使われていた古い表現ではあるんですけど、そんな言葉からも文化性を感じますよね。で蒸気ってのがパルって言うんですよ。それから、「パーリッツァ」と言うのが蒸気を浴びることの意なんですが、「ニーパーリッシュシャ」(パーリッツァするなよ)なんていう表現もあります。これは、蒸気を浴びるなよ→汗かくなよ→焦るなよ、という意味に派生しているんです。

ちなみにバーニャに入ると裸の付き合いになるので、役職やポジションにちなんだ上下関係がなくなるのがバーニャの場、という認識もあります。ロシア語には、日本語の「あなた」という敬称と、「君」というカジュアルな呼び方で「ティ」という表現があるのですが、バーニャの中では「ティ」でなるべく呼び合うという文化もあるようです。

バーニャの恵みを最大限に

いろんなスタイルのバーニャがあると伺いました。中でも、理想的なバーニャってあるんですか?

バーニャには、とにかく蒸気が必須なんです。だから天井や壁、椅子に木が使われていて断熱できたり、天井が高過ぎないことが大事。天井に蒸気が集め、蒸気がちゃんと体に入る空間が望ましいですね。あとは、ゆったりと横になれるくらいの広さも大事。それからその広さに対してサウナストーブが十分な大きさか、ですね。バーニャでは、温度と湿度の合計が120くらいがいいと言われています。例えば60度だったら60%の湿度、80度だったら40%くらいの湿度。これくらいが理想だと。これ以上やると出たくなっちゃう環境になってしまうんです。

たとえば、人間が最も熱さを限界に感じる場所は砂漠で、プラス最大60度くらい。一番寒さを限界に感じるのは、ロシアのオイミャコンというところで、マイナス60度くらいなんです。だからそれ以上それ以下を超えると、人間の体は命の危機を感じると言われているんです。日本のサウナは熱々な場所も多いですが、バーニャはもっと柔らかいものなんですよね。ただこれはバーニャのマスターが学校で教える知識で、ロシアでも熱々を好む人たちもたくさんいますす(笑)。公衆バーニャとかは特に。プライベートバーニャなど、プロがいるところでは、マイルドなバーニャを推奨していることが多いですね。

入り方以外で、日本のサウナとココが違う!と感じるのは?

冷たい水やお茶、清涼飲料水を飲んだりするのが、日本人は好む傾向にあるんですが、ロシア人は基本的にキンキンに冷えたものは飲まないですね。紅茶やジャスミンティーなど、あったかいお茶を飲んでいます。理由としては、バーニャによって内臓があっためられて浄化作用が促進されている状態なのに、そこに冷たい物を入れると体が冷えて、浄化作用が止まってしまうことを嫌がるんですよね。それからよく、「ロシアのバーニャでは、入った後にウォッカとかビールを飲むの?」って聞かれるんですが、特に入浴の合間はアルコール服用は避けるべきとよく言われています。

ロシアのバーニャ事情を詳しく知りたいです!

ぜひぜひ。最近、ロシアに出張に行ってきたんです。僕が行ったのはモスクワの首都とサンクトペテルブルクという第二の街。フィンランドに近い場所で、実はここら辺がロシアでのバーニャの発祥地と言われているんです。フィンランドとロシア人って民族的には違うし、言葉も全然違うんですが、地理が近いからか古いフィンランドのサウナ小屋と、この地方の古いバーニャは共通点があると言われています。バーニャの中では人種や言葉も関係ないって話に通じますね。ロシア出張、控えめに言ってめちゃくちゃ最高でした。続きは後編でお話したいと思います。

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