HILO HOMMA vol.1 感覚を開き、その先へ

HILO HOMMA vol.1 感覚を開き、その先へ

「まだ知らないことがあった、という幸福に出会えるんです」。若かりし頃からたくさんの旅を重ね、ビジネスにおいても数多の経験を踏んできた彼の口からでたのは、意外にもそんな言葉だった。その背景にあるというサウナのこと、自然のこと、そして生き方のこと。今もっとも注目される時代の寵児、本間貴裕さんの思考にアプローチする。

本間貴裕(ほんま・たかひろ)

2010年「あらゆる境界線を越えて、人々が集える場所を」を理念に掲げ、ゲストハウス・ホステルを運営するBackpackers’ Japanを創業。同年、古民家を改装したゲストハウス「toco.」(東京・入谷)をオープン。その後、「Nui. HOSTEL & BAR LOUNGE」(東京・蔵前)、2015年「Len」(京都・河原町)、「CITAN」 (東京・日本橋)、「K5」(東京・日本橋)をプロデュース、運営する。そして2021年春、“Live with Nature.“を提案するライフスタイルブランド「SANU」設立。第一弾として、豊かな自然の中のセカンドホーム・サブスクリプション事業の展開をスタート。

まるごと自然に入れるサウナが好き

本間さんがサウナと出会ったきっかけは何ですか?

4年前に、スノーボードでニセコに行った時です。滑り終わって近くの温泉に行ったら、オーストラリアなど海外から来ている人たちが水風呂に入っていて、ほんとみんな気持ち良さそうな顔をしているんですよね。それで僕も入ってみたんですけど、冬のニセコだから水風呂は当然シングル(=水温度が1桁台)じゃないですか。「この冷たい水に入るためにはそうとう熱くならないと!」と気づき、もう一度サウナで熱さに耐えた後、水風呂に入りました。「まあまあ気持ちいいか」なんて思いながら上がり、そのへんにあった椅子に座ったんです。そうしたら、目の前にあった桶もその先の景色も、めちゃくちゃキレイに見えてきて。「この感覚、何? これちょっとやばいんじゃない?」と(笑)。そこから僕はサウナに目覚めました。

これまで行ったサウナで、一番記憶に残っているところはどこですか?

スウェーデンのストックホルムから船で1時間ぐらい渡った孤島内のサウナかな。車も走らない小さな島で、船着き場からバギーに乗って山をゴトゴト走っていくんですが、いきなり広い庭が現れ、人々がビールを飲みながらくつろぐ景色が飛び込んできて。そこにサウナ小屋があるんです。ヴィヒタ(白樺の枝葉を束ねたもの)で身体を叩いたり押し当てるウィスキングも経験できたし、なにより水風呂として海に飛び込める造りが最高でした。

一緒に行った料理人の友達は、いつもハーブとかの面白い葉を探しているので、ここでもサウナに行く道中に草を摘んで食べたりして。それからサウナに入って、ヴィヒタで叩かれ、そのまま海に飛び込むというプロセス。もう完璧に、自然とつながった感覚でしたね。

国内でも、清流に飛び込める川原で入ったテントサウナや、湖のほとりの薪サウナなど、記憶に残る場所はたくさんあります。

ちなみに僕は、下町の銭湯にあるようなドライサウナや、箱根にあるヨモギのミストサウナなんかも好きなんです。温冷浴自体が好きだから、お風呂→水風呂のルーティンを1分ずつ10セットやることも。でもやっぱり、体ごと、自分がまるごと、自然の中に入っていけるサウナが一番好きなのかもしれません。

何にも変えがたいストークという感覚

本間さんはサーフィンやスノーボードなど、趣味も自然をフィールドにされてますよね。

そうですね。僕の中ではそれらとサウナには感覚的に通じるものがあって。良い波に乗ったり良い雪を滑った後って、なんだかポワーンとしたり、なんていうか何かに感謝したくなる感じがあるんですよ。英語では“ストーク(stoked)”と言うんですが、happyやexciteでは言い表せない感覚。そのストークを、サウナ後も味わえるんです。たぶん、どれも“自然と繋がる幸せ”があるからなのかな。ふと見上げた景色の中に映る木の枝や、月の明かり、肌をかすめる風という、自然風景のディテールや粒度を再認識させてくれるんです。

それと、「体験を共有した人との関係性を深める」というのもサウナとサーフィンやスノーボードとの共通点ですね。水風呂も海も雪山も、すべては水。人どうしでその水を媒介すると、不思議と仲間意識が生まれたり、理解しあえたりするんです。肩書きも年齢も国籍も、性別だって超えられる。属性関係なしで関係性を深められるから、水の力はやっぱりすごいですね。ちなみにサーフィンやスノーボードは、努力や挑戦があった先でやっとストークの域に入れるという難しさがありますが、サウナはただただ、座っていればいい(笑)。イージーにストークできる、最高の場所だと思います。

感覚を開くたびに増す「幸せの頻度」

自然が好きな理由には、何か幼い頃の経験が関係していると思いますか?

ひたすら山や川や湖で遊んでいただけですが、心のどこかに今も原風景は持っているんでしょうね。お祖母ちゃんの家が猪苗代にあって、周辺の雪深い景色や大きな磐梯山を見て、子ども心にもきれいだなあと感じることがありました。秋口に猪苗代湖に行くと、外気が冷たいので水面から湯気が立っていて、その中でボートを出して釣りをしたこともよく覚えています。

僕は暇なのがすごく嫌で、ちょっとでも時間を持て余すと、家で「暇だ、暇だ」ってずっと叫んでいた子どもでした。そういうところも含めて、たぶん根っこの部分は何も変わっていないんです。釣りに行きたい、スノーボードしたい、好きな仲間とそうしてずっと遊んでいたい。今も結局、そこなんです(笑)。

子どもの頃の好奇心を持ち続けるって、大人にはなかなか難しかったりしませんか?

目の前のものを当たり前に感じてしまったら、そうですよね。だから僕は、感覚を開く行為が大事、というか好きなんだと思います。特に意識していなかったものを改めて「キレイだな」と思ったり、受け流していた風を「気持ち良いな」って思ったり。月を見上げながら「潮の満ち引きは今こうだな。今頃良さそうな波が立ってるんだろうな」と想いを馳せたり。感覚を開いて目の前のものに意識を向けていくと、楽しみなこと=幸せの頻度がどんどん増えてくるんです。

サウナは、その感覚を開くという行為にすごく役立ってくれるんです。都会のサウナにしても、その帰り道では街路樹や何気ない壁の模様にも改めて美しさを感じることができる。当たり前が当たり前じゃなくなるから、それだけで楽しみが増えるんです。

ただ、都会に居続けると見逃しがちなものって何なのかなって考えると、やっぱり「自然」じゃないかと思うんです。だからこそ、自然の美しさを体中、ダイレクトに感じられるサウナが一番好きなんですよね。

川や湖、海に、人が入る機会がもっと増えたらいいなって思うんです。もっと水を感じる時間を、もっと日常的に。でも、「水冷たいし…」「濡れるのが嫌」っていう人も多いですよね。だったら、そこにサウナがあれば、水に入る理由になるじゃないですか。湖や川に入るためにサウナがある。この考え方が、好きなんです。

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